ブルークローバー・キャンペーン前立腺がん早期発見のためにPSA検診への理解を【5】
デメリット対策としてのPSA監視療法とは(2)
伊藤
そもそもUSPSTFの勧告の根拠となる科学的な背景そのものに問題があります。まずRCTとしては科学的な質が限定的で、PSA検診の死亡率低下効果の判定をするには参考にならない米国での研究結果を、検診の実施を否定する勧告の根拠として採用している点。加えて質の高いERSPCのRCT結果(前述)を軽視するなど、根拠となるエビデンスの理解や優先順位についての認識に問題があると、多くの専門家から指摘されています。PSA検診普及により、過剰診断や過剰治療による不利益を被る受診者が存在するのは事実です。そのためにも、我々は、PSA検診の利益と不利益をよく理解していただくための啓発活動に力を入れています。ぜひ、自分自身の健康管理の一環としてのPSA検診の受診について、真剣に考えていただきたいと願っています。一方でUSPSTFの勧告は、適切な情報提供なしに一律にPSA検診を制限するものであり、個人の価値観に合わせた選択の自由がなくなってしまいます。これは倫理的にも問題が多く、PSA検診の正しい方向性を示しているものでは決してありません。また、一部でUSPSTFの勧告が米国政府機関の公式見解と誤解される報道がありました。USPSTFは一部の運営資金を国から援助はしてもらっていますが、彼らの意見は政府機関の見解ではなく、実は、米国に数多く存在する研究班のひとつの参考意見にすぎません。今年になってニュージャージーの議会で、今回のUSPSTFの勧告に対して反対決議がなされました。さらには、USPSTFの中止勧告が正式に出された2012年5月21日の直後、「The Obama administration」が出されました。このオバマ宣言では、米国政府の管轄する保険であるメディケアは、年1回のPSAスクリーニングに対する補助を継続することが、明確に打ち出されました。米国の他の民間系の保険も、この決定に追随するといわれております。この結果からもUSPSTFの勧告が国民や前立腺がんの専門家から支持されているものでないと言えるでしょう。